ワイングラスの向こうに

レイチェルは「ベラ・ルチア」のワイン仕入れの責任者として太陽の輝く夏のフランスを巡っていた。
たまたま立ち寄ったアルザスの小さな町で出会ったのはすばらしいワインだけではなかった。
ワイナリー「シャルティエ」の経営者リュクは最高級のピノ・グリと甘く酔わせる恋の味を教えてくれた。
とはいえ、レイチェルはじきにロンドンに帰る身だ。
それに、リュクもどこか苦悩を抱えているように見える。
でも、この思いは止められない。
リュクは彼女が初めて知った理想の男性なのだから……。
レベッカの乗った馬車が一時停止したとき、半裸の若者が馬車に転がり込んできた。
仲間と悪ふざけに興じた末に、売春宿から逃げ出してきたという。
若者を家まで送り届けると、その兄のルーカスが現れて、冷ややかなまなざしで値踏みするようにレベッカを見た。
そして、彼女が弟を誘惑し、金を巻き上げようとしたとなじった。
こともあろうに、レベッカを売春婦と勘違いしたのだ! ルーカスのぶしつけな態度は我慢がならなかったが、その一方で、レベッカは不思議なときめきを覚えた。
興奮と不安がないまぜになったこの気持ちは何かしら……。
伯爵の血筋を引くアニカは、ロンドンの社交界でもとびきりの変わり者として知られていた。
その美貌と知性は輝くばかりだというのに、どんな男性も彼女に指一本触れることはできない。
ひと目でアニカに惹かれた貴族のトリスタンは、口実を設けて彼女に接近した。
自立心旺盛なアニカは決して意のままにならないが、そんな彼女に、トリスタンは尊敬の気持ちすら抱く。
だがアニカを知るにつれ、トリスタンは驚きを隠せなかった。
わが妻にと望んだ女性が途方もない企てにかかわっていたとは!セーラはマカオに住むイギリス人牧師の娘。
突然失踪した父親を捜そうと、彼女は必死になっていた。
禁止されているにもかかわらず、中国人への布教活動のため、セーラの父親は内地に潜入したらしいのだ。
彼女はフェニックス号の船長ジェームズ・ケリックに協力を求めた。
元イギリス海軍士官のジェームズは密輸で悪名高い男だが、ほかに誰も頼れる人がいない。
ジェームズは水先案内人を世話してもらう見返りとして、セーラの父親の捜索を引き受けた。
しかし、彼女の同行は頑として許そうとしない。
セーラはジェームズのことが信用できず、ひそかに船に乗りこむ。
ルーシーは勤務する銀行で行われている不正を追及するため、国土安全保障省のカサノヴァと名乗る捜査官に協力することになった。
だが、そのために身に危険が迫り、彼の自宅に隠れることになる――カサノヴァの新しい恋人だという名目で。
一緒に暮らすうち、ルーシーは意外な事実を知った。
実は彼は全米有数の富豪エリオット家の一員、ブライアンだったのだ。
恋人ごっこを続けるうちに、ルーシーは彼にたまらなく惹かれていく。
だけど事件が解決すれば、二人は別れなければならないだろう。
しがない銀行員とハンサムな御曹司が結ばれるはずはないのだから。
そんなある夜、ルーシーが何者かに誘拐されそうになり、二人は山奥にある隠れ家にこもることになった。
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